【ジャンル解説】パンクロック(Punk Rock)
音楽ジャンルを歴史と一緒にわかりやすくまとめました。
Punk Rock:パンクロックとは何か
始まり:1970年代中盤アメリカ、イギリス
ニューヨークパンク
パンクロックの起源は1970年代前半のニューヨークにあるといわれる。ニューヨークのパンクロックは、もともとアートや文学等も含んだ”ニューヨーク・アンダーグラウンド”とも呼ばれる若者のアートシーンから発生したと言われる。
CBGBを始めとするライヴハウスがニューヨークに多数生まれ、音楽活動が活発化する中で、ラモーンズやテレヴィジョンを始めとする様々なパンクバンドが登場したという。
それらニューヨークのパンクバンドは、60年代のガレージロックやヒッピー思想、ヴェルヴェットアンダーグラウンド等のアート志向のロックから影響を受けていたという。
その音楽性も様々で、女流詩人として活動していたパティ・スミス、文学的な歌詞が評価されるテレビジョン(バンド名はフロントマンであるトム・ヴァーレインのTVからとられた)、元ニューヨーク・ドールズのジョニー・サンダースやリチャード・ヘル、ノイジーなエレクトロニクス・ユニットのスーサイドなど、今日イメージする”パンクロック”とは趣が異なるアーティストも多い。
ニューヨークパンクは局地的なムーヴメントだったが、アメリカのインディーロック/オルタナロックの礎を築いたとも言え、後のロックに与えた影響は大きい。なお、「2,3個のコードで構成された短くて速いロック」というパンクロックの元祖は、ラモーンズだと言われている。
ロンドンパンク
ロンドンのパンクは、ニューヨークパンクの影響を受けたものと言われるが、より攻撃的でシンプルなロックだった。
経済不況下にあったイギリスで、フラストレーションを抱えた若者を中心に社会全体を巻き込む大きなムーヴメントとなった。そこには巨大産業化したロックやロックスター像に対する反発も含まれていたという。
ロンドンパンクの中でも、スキャンダラスなファッションや言動など周到なイメージ戦略を行ったセックス・ピストルズと、ヘロイン中毒で夭折したベーシストのシド・ヴィシャスはパンクの象徴的存在といえる。
逆立てたヘアスタイルやラバーソウルシューズ、破れたTシャツや安全ピン、ライダースジャケットやボンテージを取り入れたパンクファッションは、仕掛け人のマルコム・マクラレンとその妻のデザイナー ヴィヴィアン・ウエストウッドによるものといわれる。
今日”パンク”と呼ばれる音楽は、こちらのロンドンパンクを指す場合が多い。パンクロックのライヴでの激しいノリ方や暴力的なイメージも、ロンドンパンクのものである。
パンクロックの波はイギリスのみならず、ヨーロッパやここ日本にも波及し、多くのパンクロックバンドが生まれた。
ロンドンパンクはセックス・ピストルズの解散などで1980年代初頭には失速する。しかし、パンクに触発されたイギリスの若者は、”ニューウェーヴ”と呼ばれる新しいロックミュージックを生み出した。この事から、パンクロックがロックを延命させた、とも言われる。
最初のパンクロックバンドとは
パンク好きの間でも「最初のパンクロックバンドは誰か?」は意見が分かれるが、個人的にはラモーンズを推したい。1977年にリリースされたラモーンズのシングル「Sheena Is A Punk Rocker」(シーナはパンクロッカー)こそ、”パンクロック“という言葉の元祖だと考えられる。
一方、60年代のイギー・ポップ&ザ・ストゥージズやMC5は、サウンドやスキャンダラスな言動はまさにパンクロックそのものだが、パンクという言葉は生んでいない(パンクのゴッドファーザーと言われる)。
セックス・ピストルズは、社会現象化した影響力の大きさで、パンクロックではなく”パンクカルチャー”の元祖と言う方が正しいと思われる。また、セックス・ピストルズのファッション・音楽・言動に大きな影響を与えたニューヨーク・ドールズこそがパンクの元祖、という意見もある(ドールズのメンバーであるジョニー・サンダースはNYパンクの重要人物で、ピストルズの仕掛け人マルコムは短期間ドールズのマネージャーをしたことがある)。
なお、セックス・ピストルズのアルバム「Never Mind The Bollocks」(邦題「勝手にしやがれ」、なおBollocksは「キンタマ」を意味する)は、パンクのイメージとは違う制作過程を経ている。プロデューサーにはピンク・フロイドなどを手掛けたクリス・トーマスというベテランプロデューサーが起用されている。アナーキーという難しい政治用語をジョニーに吹き込んだのはマルコムである。彼はジョニーに「服従(Submission)の詞を書け」と言ったら、ジョニーは間違って「潜水任務(Sub Mission)の詞を書いた」という話もある。
代表的アーティスト
【ニューヨークパンク】
・ラモーンズ(Ramones 活動期間:1974-96)
・パティ・スミス(Patti Smith 1946-)
・テレヴィジョン(Television 活動期間:1973-78, 1992-93, 2001-)
・ジョニー・サンダース&ザ・ハートブレイカーズ(Johnny Thunders & The Heartbreakers 活動期間:1975-79, 1982, 1990)
・スーサイド(Suicide 活動期間:1971-2016)
【ロンドンパンク】
・セックス・ピストルズ(Sex Pistols 活動期間:1975-78, 1996, 2002-03, 2007-08)
・ザ・クラッシュ(The Clash 活動期間:1976-86)
・ザ・ダムド(The Damned 活動期間:1976-)
・ザ・ジャム(The Jam 活動期間:1977-82)
・ジェネレーションX(Generation X 活動期間:1976-81, 2002-05)
・クラス(Crass 活動期間:1977-84)
関連するジャンル
【影響元のジャンル】
ガレージロック、グラムロック、パブロック
【派生ジャンル】
ハードコアパンク、ニューウェイブ、ポストパンク、オルタナティヴロック、ポップパンク
動画(全部で11作品)
音楽ジャンル解説の目次はコチラ
パンクロックとは、1970年代中盤にニューヨークとロンドンで誕生したロックの1ジャンルで、既成概念の否定や反権力といった姿勢を特徴とする。
パンク(PUNK)とは元々”不良”や”役立たず”の意味だが、今日においては「パンク」という言葉が反体制的(長いものに巻かれない)な言動や個人主義的(周りに流されない)な表現として定着している。
音楽的な特徴としては、ラモーンズやセックス・ピストルズのような、シンプルでストレートな曲調と、勢いのある粗削りなサウンド、タブーを気にしない挑発的な歌などが挙げられる。
一方、商業性・大衆性と相容れない自由な音楽表現をパンクと呼ぶ事もある(パンクの型に収まる事はパンクではない、というジレンマが生まれる)。
パンクロックの音楽で優先されるのは演奏技術や知識や機材ではなく”気持ち”である、という姿勢が世界中の若者に影響を与え、様々なサブジャンルを生んでいる。